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SNSがみんなの食卓を救う!すばらしき時短レシピの進化【前編:令和のごはん革命】

SNSがみんなの食卓を救う!すばらしき時短レシピの進化【前編:令和のごはん革命】
コロナ禍でニーズが高まった時短レシピ。ここ数年、時短ブームが加速していますがその潮流が現れはじめたのは実はかなり前だったことをご存じでしょうか?平成から令和にかけて起こった食卓の変化を、作家・生活史研究家の阿古真理さんに語っていただきました。時代背景や人気レシピ本と共にわかりやすく解説します。
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2021/12/01
2021/12/08
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みなさんは、家庭でどのような料理を食べてきましたか? 変化がないような毎日の食卓でも、意外と時代の影響を受けているのではないでしょうか? 10月に出版した『人気レシピ本が教えてくれた ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)をベースに、2回に分けて平成から令和にかけての食卓の変化をたどってみます。1回目の今回は、平成の初めと終わりに、レシピの世界を席巻した時短ブームについて取り上げます。

コロナ禍が始まるまで、時短レシピを求める潮流が大きかったことをご記憶の方は多いでしょう。それは、子育て期間も仕事を続ける女性が増えた一方で、男性の長時間労働が続き、妻たちに、家事の負担が大きくかかったことが影響していると思われます。

レシピの世界で時短ブームの始まりを告げた本は、2012年に発売されたベストセラー、『終電ごはん』(文:梅津有希子、料理:高谷亜由、幻冬舎)です。冒頭に紹介されるのが、その後2010年代後半に流行するスープのレシピ。「豆もやしとキムチのごま風味スープ」など、10分程度でできて、消化が早く食べやすいものが紹介されています。冷凍うどんや豆腐のレシピも並んでいました。

イメージ1※左『終電ごはん』(幻冬舎)、右BSテレ東ドラマ「終電ごはん」

ところで最近の時短レシピの進化は、目を見張るものがあります。その進化を理解するため、少し昔を振り返ってみましょう。

1980年代から1990年代にも、時短ブームは起きていました。それは「女性の時代」と持ち上げられ、企業で働く女性が増加した時代です。1986年には、男女雇用機会均等法が施行されています。
正社員にせよ非正規にせよ、仕事を持つ女性たちが切実に求めていたのが時短術でした。なぜなら、専業主婦が増えた高度経済成長期に、家庭料理も高度化していたからです。

高度経済成長期、ガスと水道、電気が使える板の間のキッチンや家電が普及し、農業・畜産業の発展などで、庶民の食卓が一気に豊かになりました。テレビ番組や主婦雑誌が発信する、洋食や中華などが流行しています。その頃に紹介されたレシピは、グラタンやロールキャベツ、ギョウザなど、手間がかかる料理が目立ちました。メディアが提案する日替わり献立も、当たり前になりました。それは当時、専業主婦になり家事に力を入れる女性が多かったからです。

しかし、仕事のかたわら家事をする女性たちには、料理に手間をかける時間がない。当時は、「家のことに手を抜かない」と夫と約束して仕事に出た女性も多かったのです。ワンオペが前提だったことも、女性の負担を大きくしていました。
洋食・中華のイメージを変えずに、手間を省くことが重要な時代でした。時短料理家として名をはせた小林カツ代さんは、具材を包む手間を省いて具と皮を別々に入れる「わが道を行くワンタン」などのレシピを紹介しています。平野レミさんも、衣で包まないコロッケのレシピを考案しました。

イメージ2※左『小林カツ代の伝説のレシピ』(家の光協会)、右『平野レミのしあわせレシピ』(自由国民社)

その後、1990年代は電子レンジが9割以上の家庭に普及したこともあり、電子レンジ、スピードカッター、オーブントースターを使った時短レシピが人気になりました。
2010年代の時短レシピには、大きく三つのパターンがあります。一つ目は、材料を少なくする、道具を少なくするといったプロセスを簡単にする方法。二つ目は、週末などに作り置きをし、平日の作業を減らすこと。三つ目は、便利な調理家電を使うことです。

一つ目は、たとえばじゃがいもやたまねぎなど、皮むきに手間がかかる材料を避ける。フライパン一つ、鍋一つでできるなど、洗い物を減らすレシピもあります。YouTuberのキコノヒトさんは、狭い1人暮らし用キッチンを改良して調理スペースを確保し、従来の調理法とは異なる鍋一つのレシピを開発しました。それは例えば、フライパンで具材を炒めた中にトマトや牛乳などを加え、パスタも一緒に煮てしまうトマトクリームパスタなどです。

二つ目は、常備菜や、下味をつけた肉などを冷凍しておき、直前に火にかけて完成させる下味冷凍などの作り置き。レシピブログでも人気のゆーママさんは、今人気のミールキットを自作し冷凍するレシピ本『“自家製ミールキット”が新しい!ゆーママの平日ラクする冷凍作りおき』(扶桑社)を2018年に出しています。

三つ目は、コロナ禍で大ヒットしたホットクック、ホットプレートのほか、電子レンジなどの家電で時短にする方法です。特に山本ゆりさんの電子レンジレシピには、「加工食品を使うより簡単にできるのでは?」と思わせる画期的なアイデアが、たくさん詰まっています。『syunkonカフェごはん レンジでもっと!絶品レシピ』(宝島社)の「鶏のうまだれ蒸し」は、鶏肉の筋を切ってから塩コショウを振り、耐熱皿にのせて調味料をかけ、ラップをかけて電子レンジで加熱します。かけた調味料を絡め、粗熱が取れたら食べやすい大きさに切って器に盛れば食卓に出せます。

イメージ3※左『“自家製ミールキット”が新しい!ゆーママの平日ラクする冷凍作りおき』(扶桑社)、右『syunkonカフェごはん レンジでもっと!絶品レシピ』(宝島社)

時短レシピが大きく進化したのは、SNSで発信する料理家が増え、作ってみた読者とコミュニケーションをしてきたからでしょう。また、40年余りの時短レシピ研究の蓄積も大きい。読者の要望に応えてレシピを改良し、本に集約させた料理家と彼女・彼たちを支えたスタッフたちの努力のたまものです。だから令和のレシピは、料理を作りたい人みんなの貢献で完成したと言えます。

後編「誰もが料理を楽しむ時代!多彩で豊かな令和の食卓【後編:令和のごはん革命】」はこちら>>

プロフィール

この記事を書いた人:阿古真理さん

作家・生活史研究家 1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学を卒業後、大阪の広告制作会社を経て1996年よりフリー。1999年に東京に拠点を移し、ジャーナリズムの世界に入る。東洋経済オンライン、現代ビジネス、FRaU、クックパッドニュースなどのウェブマガジンで食のトレンド、家事、ジェンダーをテーマに執筆するほか、食を中心にした暮らしの歴史やジェンダー関連の本を執筆。主な著書に『昭和育ちのおいしい記憶』(筑摩書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『うちのご飯の60年』(筑摩書房)、『昭和の洋食 平成のカフェ飯』(ちくま文庫)、『小林カツ代と栗原はるみ』・『料理は女の義務ですか』(共に新潮新書)、『日本外食全史』(亜紀書房)など。

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