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誰もが料理を楽しむ時代!多彩で豊かな令和の食卓【後編:令和のごはん革命】

誰もが料理を楽しむ時代!多彩で豊かな令和の食卓【後編:令和のごはん革命】
今は老若男女問わず、誰もがキッチンに立ち料理を作る時代。家族構成やライフスタイルの変化に伴い食卓にも多彩なニーズが生まれています。平成から令和にかけて起こった食卓の変化を、作家・生活史研究家の阿古真理さんに語っていただきました。時代背景や人気レシピ本と共にわかりやすく解説します。
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2021/12/08
2021/12/14
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平成・令和の食卓の変化で、特に目立ったのはライフスタイルの多様化に対応したレシピが増えたことです。『人気レシピ本が教えてくれた ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)を出版してわかった食卓のトレンド、後編の今回は、そのあたりを中心にご紹介したいと思います。

昭和期には、両親と子ども2人の核家族が「標準」とされ、今も放送が続く『サザエさん』一家のような二世帯同居も珍しくありませんでした。
ところが高度経済成長期が終わった1975年頃から、ゆるやかに少子化が始まり、1990年には女性が生涯に産む子どもの割合が1.57に低下したことから「1.57ショック」と言われ社会問題になり始めます。女性の地位が上がらない、庶民の生活が苦しいなどの事情から、少子化は一向に改善しないまま、令和の時代を迎えました。晩婚化、非婚化も進んでいます。

2人暮らし、1人暮らしには、4人家族とは異なる料理の方法が求められます。育ち盛りの子どもが2人いれば、作った料理は一気になくなるかもしれませんが、少人数家族ではそれほど多くの食材を使いませんし、鍋ものなど人数が多いほうが盛り上がる料理もしづらい。
また、子どもがいても塾や習い事、部活で忙しい、親たちも社交や残業で忙しいといった家庭が珍しくありません。コロナ禍では料理の負担が増えた人が多かったのですが、それは、それまで家族が食卓にあまりそろっていなかったからではないでしょうか。

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また、平成・令和の時代に健康意識が高くなった人も多かったでしょう。肥満や生活習慣病をメタボリックシンドロームと呼び、政府が健康的な食生活を呼びかけたのが2006年です。2010年代半ばには糖質制限ダイエットが流行し、これまでの食生活を見直す人が増えました。そして、2020年に生活習慣病を抱えている人ほど重症化しやすい、新型コロナウイルスが登場。アイランドが2020年4月に実施したアンケート調査でも、コロナ禍で「健康を意識した食材や調味料を選ぶようになった」人が30%もいました。

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もう一つ見逃せないのが、料理する男性の増加です。1990年代に始まった『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)や『チューボーですよ!』(TBS系)、この頃一世を風靡した『料理の鉄人』(フジテレビ系)など、テレビで人気男性タレントなどが料理する場面が一気に増えたのが平成時代です。今は男性が料理するテレビCMも当たり前になりました。

また、2021年現在・45歳以下の世代は家庭科の男女共修世代です。昭和の時代、中学生以上は女子だけが家庭科必修だったことは、「料理は女性がするもの」という意識を男女に刷り込んだと思われますが、1993年に中学校で、1994年に高校で家庭科が男女共修になったことは、若者の意識を変化させたのではないでしょうか。

いくつもの要因が重なった結果、現在では男性が料理することも珍しくなくなり、SNSでレシピを発信する男性も大勢います。
SNSなどで発信された人気レシピを見ていると、従来のレシピが、家族のために料理する女性を対象にしたものが主流だったことに気づかされます。しかし、自分のために作る人たちが求めるレシピには、また別の技術と感覚が必要です。

YouTubeで『COCOCOROチャンネル』を発信する料理人の大西哲也さんは、『COCOCORO大西哲也のドヤ飯』(大和書房)で、パンチのある味付けの定番料理をいくつも紹介しています。プロっぽい仕上がりにするコツとして、正確にレシピを再現するなどのほか、食材や調味料を代用せず、家にないものはインターネットや専門店で調達するよう伝えています。今よりずっと珍しい食材・調味料が手に入りにくかった昭和の時代、料理家たちがメディアでレシピを発表する際、「家庭にないものは使わないように」と、代用食材・調味料の提案をさせられたのとは隔世の感があります。

味を向上させるために、あえて手をかけるポイントも紹介。例えばエビチリは、エビを4回にもわたって揉み込むプロセスがあります。そこまですることで臭みが取れ、「信じられないぐらいおいしく」なるのだそうです。

自炊術を教えるレシピも増えました。「自炊料理家」を名乗る山口祐加さんは、『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』(エクスナレッジ)で、大量のホウレンソウにオリーブオイルと塩を加えて蒸すだけの「ほうれん草のオイル蒸し」や、サバ干物をキュウリなどとパンに挟むサンドイッチなど、1人暮らしでも栄養をしっかり摂りつつリーズナブルにできるレシピをいくつも紹介しています。

イメージ4※左『COCOCORO大西哲也のドヤ飯』(大和書房)、右『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』(エクスナレッジ)

驚くほど簡単なレシピを次々と発信する、リュウジさんも人気です。こうしたSNSなどで人気が出たレシピは、料理初心者のカズレーザーさんなどが挑戦する『家事ヤロウ!!!』(テレビ朝日系)でも紹介され、拡散しています。必ずしもヘルシーな料理ばかりではありませんが、さまざまなライフスタイルの人が挑戦しやすい環境を、インターネットと既存のメディアが競い合うように発信するのが令和の時代です。

多彩な人が多彩な人に向けてレシピを発信する。そして、受け手が料理を覚えて自宅の食卓を豊かにしていく。もしかすると今は、食生活が本当の意味で豊かになり始めた時代と言えるかもしれません。

 

前編「SNSがみんなの食卓を救う!素晴らしき時短レシピの進化【前編:令和のごはん革命】」はこちら>>

プロフィール
この記事を書いた人:阿古真理さん
作家・生活史研究家 1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学を卒業後、大阪の広告制作会社を経て1996年よりフリー。1999年に東京に拠点を移し、ジャーナリズムの世界に入る。東洋経済オンライン、現代ビジネス、FRaU、クックパッドニュースなどのウェブマガジンで食のトレンド、家事、ジェンダーをテーマに執筆するほか、食を中心にした暮らしの歴史やジェンダー関連の本を執筆。主な著書に『昭和育ちのおいしい記憶』(筑摩書房)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)、『うちのご飯の60年』(筑摩書房)、『昭和の洋食 平成のカフェ飯』(ちくま文庫)、『小林カツ代と栗原はるみ』・『料理は女の義務ですか』(共に新潮新書)、『日本外食全史』(亜紀書房)など。

阿古真理さん最新刊「人気レシピ本が教えてくれた ラクしておいしい令和のごはん革命」好評発売中!

書影
人気レシピ本が教えてくれた ラクしておいしい令和のごはん革命
阿古真理 (著)

平成から令和の人気レシピ本約150冊からひもといた家庭料理40年の進化がまるわかり!現代の日本人は何を作って食べてきたのか、家庭料理のトレンドがぎゅっと詰まった1冊です。人気料理家・SHIORIさん&山本ゆりさんのインタビューも収録。読めばきっとお腹がすいて料理がしたくなる、ラクしておいしい知恵が満載です。

 

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