産んでくれた母親に感謝しながら、韓国人が一生食べ続ける「わかめスープ」
こんにちは!韓国料理研究家の本田朋美です。
2~3月は受験シーズンですね。
日本では受験生が合格を願って、ゲン担ぎでカツ丼を食べるようなことがありますが、お隣の韓国では「受験生が食べるのはタブー」とされている食べ物があるんですよ。
それは「わかめスープ」です。意外ですよね?
そして、受験生にとって縁起が悪いと言われる一方で、どんなスープよりも愛に溢れた、深い意味があります。
今回は、この「わかめスープ」について解き明かしていきたいと思います♪
受験の日の朝にわかめスープを食べないで!
韓国では「わかめスープを食べた」というフレーズに、2つの意味があります。
1つは「誕生日を迎えた」という意味、もう1つはなんと「試験に落ちた」という意味です。
わかめは表面がツルツルとしていて、「滑る」「落ちる」という言葉を連想させるため、受験の日の朝にわかめスープを食べると縁起が悪いんですね。
ですので、試験に落ちてしまったり、会社をやめさせられたりしたら、「わかめスープを食べた」という言い方をします。
産んでくれた母親に感謝しながら、韓国人が一生食べ続けるわかめスープ
最初にちょっとイメージの悪い話をしてしまいましたが、わかめスープは韓国人が生涯食べ続ける特別な料理です。
それは、わかめスープが「子どもを産んだ女性の回復食」であることに関連しています。
くじらの真似をしたのがはじまり?
では韓国では、どのようにして「子どもを産んだ女性の回復食」となったのでしょうか?
中国の唐時代(7~10世紀)に発刊された百科事典の『初学記』に、「くじらが子どもを産んで負った傷を癒すためにわかめを食べていた。それを見た高麗人が産婦にわかめを食べさせた」と記されていました。
1977年に出版された歴史書の『朝鮮女俗考』では、朝鮮時代の風習について記されており、女性が子どもを産んだ後、出産の神である「三神」にご飯とスープを3杯ずつ捧げ、祭祀が終わると、そのご飯とわかめスープを産婦が全て食べたのだそうです。
三方を海に囲まれている朝鮮半島では、わかめは波によって自然と海岸に打ち上げられるので、昔から入手しやすい食品だったことは容易に想像できますし、出産後に必要な栄養を豊富に含んでいて、しかも身近な食品であるわかめを出産後の女性が食べる習慣ができたのも納得ですね。
子どもを産んだら、毎日3食×3週間「わかめスープ」を食べ続ける
長い歴史を経て、今も受け継がれている産婦の回復食としてのわかめスープ。
現代ではどのように食べられているのでしょう?
韓国では病院で子どもを出産したら、退院するまで病院が用意したわかめスープを毎日3食いただきます。
そして退院後は、産後ケアの施設「産後調理院」で過ごす人は施設で作られたわかめスープを、自宅や実家に帰る人は家族が作ったものを3食いただきます。
こうして、とにかく毎日3食×3週間、わかめスープを食べ続けるんです。
日本ではちょっと想像がつかない習慣ですよね。
でもこれにはちゃんと理由があって、わかめに含まれる水溶性食物繊維はデトックス作用に優れ、葉酸、鉄分は造血を促してくれますし、ヨードは甲状腺ホルモンを合成して新陳代謝を活発にするので出産で衰えた体力を回復してくれて、しかも母乳の出が良くなることも期待できます。
お母さんのためも、赤ちゃんのためにも、わかめスープは良いんですね♪
韓国ドラマ『トッケビ』で胸が痛くなるシーン
そして、韓国人が必ずわかめスープを食べる日があります。
それは、誕生日。
韓国人の誕生日は、朝、誕生日を迎える本人以外の家族が作ってくれたわかめスープを食べることで始まります。
誕生日に食べるわかめスープには「産んでくれた母親への感謝」という意味が込められています。
誕生日にわかめスープを食べるシーンは韓国ドラマでも度々登場しますが、中でも印象的なのは『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』です。ご覧になりましたか?
幼い頃に母親を亡くした女子高校生のウンタクが、意地悪な叔母宅で虐げられながら暮らしている時、自分の誕生日を迎えた朝に自分でわかめスープを作っていると、その様子を見た従妹たちから「自分で自分の誕生日のお祝いをするの?」と嫌味を言われますが、ウンタクは台所で立ったまま黙々と1人、わかめスープを食べるのです。
自分以外の誰かにわかめスープを作ってもらうのが「誕生日のお祝い」を象徴しているので、トッケビのこのシーンを見た時は、ちょっと胸が痛くなりました…。
地域で異なるわかめスープ
今までの話からすると、わかめスープは人生の節目にだけ味わう印象ですが、キムチチゲやテンジャンチゲ(みそチゲ)のように、もちろん普段の食卓にのぼります。
一般的な韓国のわかめスープは牛肉入りですが、地方によってわかめに合わせる食材が異なります。
例を挙げると、朝鮮半島の南西にある莞島(ワンド)はアワビの養殖で活発で、この辺りではアワビ入りのわかめスープが有名です。
日本でも有名な済州島(チェジュド)では、ウニ入りと豪華!
私も済州島を訪れた際にウニ入りをいただいたのですが、牛肉よりも磯の香りが強く感じられて、特別な感じがしましたよ。
そして、北朝鮮に隣接している江原道(カンウォンド)は、干し鱈入りわかめスープが愛されています。干し鱈からもうま味がたっぷりでるので、滋味深いですよ。
その他にも、鶏肉、豚肉、牡蠣、かれい、ムール貝、あさりを使ったものもあります。
これは牡蠣入りのわかめスープです。
以前、韓国人の友だちに聞いたのですが、産後に牛肉入りのわかめスープが続くと飽きてしまうので、途中で食材を変えて家族に作ってもらったとか。こういった工夫は大切ですね!
それでは、最後に韓国風わかめスープ「ミヨクッ」のレシピをご紹介します!
大量に作る場合は牛肉の塊肉でスープを取ってから、その牛肉を手で裂いて鍋に戻し、味付けをするという工程を取りますが、今回は2人前で手軽に作れるように、小間切れ肉を使ったレシピにしました♪
韓国風わかめスープ「ミヨクッ」レシピ
調理時間
40分
分量
2人分
材料
・乾燥わかめ(カット済)…5g
・水…3カップ
・昆布(10cm)…1枚
・牛こま切れ肉…50g
・おろしにんにく…小さじ1
・薄口しょうゆ…大さじ1/2
・ごま油…小さじ1
・塩…少々
作り方
1. ボウルに水と昆布を入れ、30分ほど浸けておく。
2. 乾燥わかめは水(分量外)で戻して、ザルにあげて水を切る。
3. 牛こま切れ肉は、大きい物があればはさみで食べやすい大きさに切る。
4. 鍋にごま油を引いて中火にかけ、牛こま切れ肉を炒めて色が変わったらわかめを加えて炒め合わせる。
5. 鍋に1の水と昆布を加えて強火にし、沸騰前に昆布を取り出す。アクを取り除き、おろしにんにくを入れる。蓋をして弱火で30分程度煮たら、薄口しょうゆと塩で味を調え、器に盛りつける。
わかめは炒めることでコクがでます。
このレシピではごま油を使用しましたが、サラダ油でに変えても構いません。
なお、ねぎは栄養面を考えて入れないでください。
ねぎの持つ硫化アリルがわかめのカルシウムの吸収を妨げてしまうので、韓国ではねぎを入れません。
また、韓国ではわかめがクタクタになるまで煮るのが一般的ですが、煮る時間は少し短くしても大丈夫です。
それでは今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!