えっ!焼き芋と一緒に?知ってびっくり韓国本場の「水キムチ」
こんにちは!韓国料理研究家の本田朋美です。
いまや日本の漬物を上回る勢いで売れているキムチ。スーパーではキムチ専用の販売コーナーもありますよね。
日本で市販されている「キムチ」は、赤いヤンニョム(合わせ調味料のこと)に浸かった白菜キムチが中心ですが、近年の発酵食ブームの中で注目を浴びているのは「水キムチ」でしょう。
そこで今日は韓国本場の水キムチについて、お話しようと思います!
じつはいろいろある!韓国本場の水キムチ
水キムチは「漬け汁を味わうもの」
水キムチは韓国語で「ムルキムチ」と言い、たっぷりの漬け汁に少量の野菜が入った漬物です。
ムル(水)という名前がついているだけあって、具よりも漬け汁を楽しむキムチなんですよ。
水キムチの魅力は、何と言っても発酵によって生まれる清涼感と、さっぱりとした飲み口です。
初めて水キムチを召し上がる方は漬け汁を残しがちですが、この汁にこそ栄養がたっぷりと含まれているので、ちょっともったいないですね。
栄養については後ほどお伝えするとして、今回もまずは歴史から辿っていきましょう。
水キムチの元祖は、大根で作る「トンチミ」
漬物は、西暦100年以降に中国から韓国(朝鮮)伝わったと言われています。
そう言えば一時期、中国と韓国の間でキムチを巡って起源はどちらの国なのかという論争が湧き上がりましたよね?
第三者からすればどちらの言い分も理解できない訳ではありませんが、私は「キムチ」に進化する前の漬物は中国発祥で、そこに副材料などを加えて「キムチ」を作り上げたのは韓国(朝鮮)と考えています。
中国から伝わった漬物はシンプルな野菜の塩漬けでした。この塩漬けが三国時代(4~7世紀頃)に入ると進化し、きび粥、もち米ご飯、あずきなどの雑穀や、しょうが汁、蜜等が加えられるようになりました。
その後、統一新羅時代(7~10世紀)になるとさらにバリエーションが広がり、山椒や橘皮といった香り豊かな食材が使われるようになりました。
この頃、香味野菜を利用し、漬け汁の多い丸漬け大根のキムチ「トンチミ」が誕生しました。
これが元祖「水キムチ」です。初めての水キムチの具は大根だったんですよ。
ご参考までにトンチミの「トン」は漢字で「冬」と書き、文字通り冬の漬物であり、韓国の冬を代表する水キムチです。
長期保存のために大根をまるごと漬けるのですが、今でも韓国ではその方法が受け継がれています。トンチミについては以前、冷麺のご紹介記事でお伝えしましたので参考になさってください。
韓国の夏を代表する「水キムチ」
トンチミが冬の水キムチなら、夏を代表する水キムチは何だと思いますか?
それは「葉大根のムルキムチ」で、夏の珍味と言われています。茎のサクサクとした歯ごたえがなんとも言えません。
葉大根の水キムチはもちろんそのまま食べてもいいのですが、この水キムチにそうめんを入れたり、ご飯を入れたりして楽しむのが韓国流。水キムチにご飯を入れて食べる料理「キムチマリパッ」を食べると、夏の到来を大いに感じます。
唐辛子の代わりに花で色付け
他にも代表的な水キムチがあります。この「ナバクキムチ」は大根と白菜を四角く薄切りにして塩漬けし、香味野菜を入れたたっぷりの汁で漬けた水キムチです。
「ナバク」とは韓国語で色紙切りのことです。今では野菜を切って漬けたものも水キムチと言いますが、元々は丸漬けのものと区別して「ナバクキムチ」と呼んでいました。
現在は大根の水キムチを「トンチミ」、色紙切りの白菜と大根の水キムチのみを「ナバクキムチ」、それ以外は「野菜の名前+水キムチ」と呼ぶのが定着しました。
なお、現代のナバクキムチは、粉唐辛子を使った赤い漬け汁のものが多いのですが、辛味は強くなく、粉唐辛子で色付けしている程度です。
「色」といえば、唐辛子が朝鮮半島に入って食用になる前の朝鮮時代、ケイトウの花を利用して漬け汁を赤く染めることもあったようです。
韓国では陰陽五行説に基づいて青(緑)、赤、黄、黒、白の五色の食材を利用して料理を作るのですが、唐辛子が朝鮮半島に入る前は赤い食材が少なかったのが理由です。そのため、白い食材を赤い花で染めるという方法が取られました。食べ物にケイトウで色付けするお話は、以前チャプチェの記事 でもご紹介しましたね。
こういった背景を知ると、改めて唐辛子の存在は大きいなと思います!
焼き芋?韓国餅?ちょっと意外な組み合わせ
冬と夏の話が出たので、今度は秋の話をします。
秋の味覚といえば、焼き芋ですよね!日本と同じように韓国でもスーパーやコンビニで販売されます。
買える場所は日韓であまり違いませんが、食べ方が少し異なります。
韓国ではなんと、焼き芋と水キムチと一緒に食べるんです!
焼き芋は食べているうちに喉が渇いてくるので、水キムチの汁を合間に挟むと食べやすくなります。さらに、焼き芋の濃厚な甘さと水キムチのまろやかな塩味やほどよい酸味が、思いのほかよく合うんですよ!
ちょっと水キムチから脱線しますが、焼き芋に白菜キムチをのせて食べると、複雑な味になって止まりません。この食べ方を知ってから、私は白菜キムチなしでは焼き芋が食べられなくなりました。ぜひ一度試してみていただきたいです。
また「韓国餅と水キムチ」という想像を超えた組み合わせもありますが、これも意外や意外、絶品です!
胃腸の働きを良くする水キムチ
韓国の飲食店、特に韓定食(韓国のコース料理)のお店では、水キムチがほぼ最初にテーブルに上ります。
水キムチを最初に口にしてからごちそうを食べると、胃腸の調子が整えられ、胃もたれしにくいからです。
乳酸菌には動物性と植物性の2つがあり、植物性の方が動物性よりも圧倒的に胃酸や胆汁酸に強く、生きて腸まで届くことが多いと言われています。腸まで届いた植物性乳酸菌は、善玉菌のエサになって、腸内環境を良くしてくれます。
発酵した水キムチには植物性の乳酸菌が豊富に含まれていることから腸内環境の改善につながり、アレルギー改善、免疫力アップ、肌の改善も期待できるので、韓国では「飲む美容液」と呼ばれるほど!
水キムチを食べ慣れていない人は具だけを食べて漬け汁を残しがちですが、こういった効果を知ると漬け汁も残せません。最後の一滴まで味わい尽くしたいですね!
それでは、最後に本場の水キムチの定番「トンチミ(大根の水キムチ)」のレシピをご紹介します!
砂糖を一切使わず、上新粉のりと梨で甘さを引き出した、やさしい味わいです。
「トンチミ(大根の水キムチ)」レシピ
調理時間
30分(塩漬けと発酵時間を除く)
分量
4人分
材料
A 水…200ml
A 上新粉…大さじ1
・大根…500g
・塩 大さじ1と1/2
・小ねぎ…3本
・梨…1/2個(150g)
・玉ねぎ…1/2個(200g)
・鷹の爪…1本
・にんにく…10g
・しょうが…5g
・水…800ml
作り方
1. 上新粉で「のり」を作る。鍋にAを入れて良く混ぜる。強火にかけて沸騰したら火を止めて、氷水(分量外)に鍋ごとつけて冷ましておく。
2. 大根は皮がついたまま長さ4~5cmに切り、幅1cmの拍子切りにする。ボウルに大根を入れ、塩大さじ1を全体に良くまぶし、1時間ほど塩漬けする。
3. 小ねぎの根を切り落とし、大根の長さにそろえて切り分ける。
4. 梨と玉ねぎは皮をむき、それぞれ2cm角ぐらいに切っておく。にんにくとしょうがの皮はむいて粗みじんに切る。
5. フードプロセッサーに4の梨、玉ねぎ、にんにく、しょうがを入れてペースト状にし、キメの細かいザルに入れて濾す。
6. 消毒した保存容器に、1で冷ましておいたのり、2の大根、大根から出た水分、水800ml、3の小ねぎ、5の濾した汁、鷹の爪を入れる。空気を遮断するために、水面にラップをのせる。
7. 夏はクーラーの入った部屋で数時間、春と秋は日の当たらない常温の場所で半日ほど、冬は1日置いてから冷蔵庫に保存する。
※冷蔵庫に保存するときは、ドアに近い場所を避けてしっかりと奥に入れるようにしてください。
マンションや戸建てなど、ご自宅の環境によって、発酵の進み方が変わります。発酵すると泡がでて、香りが変わります。
召し上がる前に味見をして、足りなければ塩で味を調えてください。味が濃すぎる場合は、ミネラルウォーターを加えてください。ご参考までに、漬けたての時点でやや塩気が強い方が長く保存が可能です。保存状態が良ければ、2~3週間ほどおいしく食べられます。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!