韓国で大ブーム!“ハルメニアル”な最旬スイーツ「薬果(ヤックァ)」
こんにちは!韓国料理研究家の本田朋美です。
日本では2010年あたりから若い世代の間で「昭和レトロブーム」がじわじわと湧き上がり、2020年頃からは「平成レトロブーム」が起こりました。一方お隣の韓国では2018年頃から、新しいものと古いものを組み合わせた「ニュートロブーム(ニュー+レトロブームの造語)」が続いています。
例えば昔ながらの韓国式家屋である「韓屋(ハノク)」をリノベーションした飲食店が人気となり、特にソウルの仁寺洞(インサドン)近くにある韓屋村(ハノクマウル)には、韓屋をリノベーションしたおしゃれなカフェが多いため、現地の人たちと多くの観光客で賑わっています。
またこのブームに乗って既存の商品パッケージをニュートロテイストに一新し、売上アップにつながったという事例も。
今回は、そんな「ニュートロブーム」で大注目の伝統菓子「薬果(ヤックァ)」について探求していきます!
なお日本では、日本人が発音しやすいように「ヤッカ」と紹介されていることが多いのですが、今回は韓国語の発音に近い「ヤックァ」と呼ぶことにしますね。
韓国で大ブームの「薬果(ヤックァ)」
「薬」という字が使われている理由
韓国でのブームを受けて、日本でも注目されている「薬果(ヤックァ)」ですが、初めて耳にする方も多いかと思います。
薬果とは韓国の伝統菓子である「韓菓(ハングァ)」の一種で、小麦粉にごま油、はちみつ、酒などを混ぜ合わせて捏ねた生地を成型し、油で揚げた後にしょうが風味の蜜に浸した揚げ菓子です。
薬果を始め、韓国には「薬」という文字が入る料理がいくつかありますが、それは韓国料理の根底に「薬食同源」の考えがあるから。「薬果」に「薬」という文字が使われているのも、体に良いと言われる「はちみつ」や「ごま油」を使用しているからです。
もうひとつ気になるのが、菓子なのになぜ「薬菓」ではなく「薬果」と表記するのか、ですよね?
この点については、のちほどお話しますね!
仏教との深い関わり
四世紀頃、朝鮮半島の三国時代に中国から高句麗に仏教が伝来し、七世紀に入ると中国から新羅に茶が渡ってきました。
その後、高麗が936年に朝鮮半島を統一すると仏教が国教となったため、肉類や魚類を食べることが禁じられ、菜食と共に仏教と深い関りのある茶文化、あわせて中国から伝わってきたいろいろな茶菓子が広く普及しました。
薬果の原型と考えられる茶菓子は、もともと中国では「魂を招く食べ物」とされ、供物として使われていました。朝鮮半島においても、三国時代には祭祀用の供物だったのですが、高麗時代には前述の理由から嗜好品として貴族の間で大流行し、貴族たちの食生活を豊かにしました。
高麗時代の王子が元から王妃を迎えた時には祝い膳に薬果を取りそろえた、という記録が「高麗史」に残されています。
果物の形をしていたから「薬果」
1730年頃の朝鮮時代に刊行された百科事典「星湖僿説(ソンホサソル)」によると、当時の仏教の祭祀では果物や動物の形を模した薬果が供えられていたそうです。しかし果物や動物の形をした薬果は高く積むのに苦労したため(韓国では祭祀の料理を高く積んで供えます)、積み上げやすい四角などの形状に変わっていったものの、「薬果」という名前は引き継がれました。
つまり「薬菓」ではなく「薬果」と書く理由は、「果物の形を模していたから」なんですね。
お祝いの席に必ず用意された薬果ですが、材料が高価だったために使用禁止令が敷かれ、代わりに果実を使用するよう命令が下ったこともあったようです。
薬果の種類について
ここからは薬果の種類についてお話しますね。
薬果は大きくわけて2種類あります。
・開城薬果(ケソンヤックァ)
生地をあまりこねずにまとめて、包丁で四角く切りって揚げた後にシロップをしみ込ませます。
できあがりは層ができるので、パイのようなサクサクとした食感です。
・宮中薬果(クンジュンヤックァ)
生地を捏ねた後に専用の型で抜いて油で揚げ、シロップをしみ込ませます。
なつめで作った餡を入れ、餃子のような形にした薬果もあります。
薬果と「ハルメニアル」
ここから現代の「薬果」についてお話していきます。
一時期は洋菓子に押されていた韓国の伝統菓子ですが、伝統菓子の魅力に惹かれた方たちが韓食デザートカフェや販売店を手掛けるなどして徐々に復活し、2020年頃に動画サイトのモッパン(食事をしている様子を配信する動画)で薬果が紹介されたことをきっかけに大きく注目されるようになりました。
2022年になると、冒頭にお話した「ニュートロブーム」の流れにのって薬果と洋菓子を組み合わせた「創作薬果」が人気を集め始めます。
この頃に生まれた言葉が「ハルメニアル」です。
ハルメニアルとは「ハルモニ=おばあさん」「ミレニアル世代(1980年頃から1990年半ばに生まれた世代)」をくっつけた造語で、「おばあさんの時代のものを好むミレニアル世代」という意味合いです。
薬果はまさに「ハルメニアル」なスイーツなんです!
ここからは、ソウル旅行で見つけた薬果スイーツをご紹介します。
・薬果ジェラート
60年の伝統がある宮中餅と韓菓の専門店「マンナダン」とジェラート専門店の「A.GA GELATO」がコラボし、期間限定で販売されたのがこちらの「薬果ジェラート」です(※現在は販売していません)。
黒ごまジェラートには砕いた薬果が入っていて、トッピングにもミニ薬果が使われていました。なめらかなジェラートに香ばしい薬果のサクサク感が心地よく、黒ごまの風味が引き立っていました。
・薬果クッキー
この春、韓国のコンビニエンスストア「CU」で「薬果クッキー」が発売されました。
手のひらサイズの大きなクッキーの上に薬果がまるごとのっています。サクサクのクッキーとしっとりとした薬果の組み合わせがユニークですね。ちなみになんと1個580kcalもあります!
・薬果ドーナツ
「薬果ドーナツ」も同じくCUで見つけたものです。
オールドファッションドーナツ型の薬果にチョコレートがかかった感じですね。こちらは1個299kcalです。
どちらもカロリー爆弾なので、覚悟して食べる必要がありますね!
ここまで韓国の情報をお伝えしましたが、日本の韓国食材のスーパーでミニ薬果が売っています。そしてコリアンタウンの新大久保でも、このミニ薬果を使ったスイーツが増えていますので、検索してみてくださいね。
(「薬果」や「ヤックァ」よりも「薬菓」や「ヤッカ」で検索した方がたくさんヒットするようです)
それでは、最後に「薬果」のレシピをご紹介します!
揚げるのに少し時間がかかりますが1週間ほど保存ができますので、プレゼントにも最適です。
薬果(ヤックァ)のレシピ
調理時間
30分(生地を寝かせる時間、シロップに浸ける時間を除く)
分量
2~4人分
材料
(A)
・強力粉…75g
・薄力粉…75g
・酒…大さじ3
・ごま油…大さじ1と1/2
・はちみつ…大さじ1
・塩…小さじ1/4
(B)
・しょうがのしぼり汁…小さじ1
・水…50ml
・塩…ひとつまみ
・はちみつ…50ml
・サラダ油…適量
(トッピング)
・松の実、かぼちゃの種、なつめ(せん切り)など…適宜
作り方
1. ボウルにAの材料をすべて入れて良くこね、ラップをかけて30分ほど生地を寝かせる。
2. 鍋にBの材料をすべてを入れて良く混ぜ、中弱火にかける。時々混ぜながら5分ほど加熱し、とろみが出てシロップの量が半分くらいになったら火を止める。
3. 綿棒で1の生地を5mmほどの厚さに伸ばしてクッキー型で抜き、中央に菜箸の先で穴をあける。
4. 鍋にサラダ油を入れて弱火にし、100度ぐらいになったら3を入れて揚げる。表面が膨らんできたらひっくり返す。両面に薄く揚げ色がついたら火力を強めて中火にし、160度ぐらいで両面がきつね色になるまで揚げる。
5. 4の油をよく切り、2のシロップの中に30分ほど浸したらお好みでトッピングをのせて器に盛り付ける。
小麦粉は、強力粉と薄力粉を混ぜるか、中力粉を使用してください。薄力粉だけだと揚げている途中で形が崩れます。
型抜きした際に残った生地は、再度捏ねて綿棒で延ばすとまた使えます。型を使わず、縦横2cm程度の正方形に切る方法もあります。
今回の薬果は、少しあっさりと食べられるようにシロップの量を少なめにし、浸ける時間を短くしています。シロップを中までしみ込ませたい場合は、シロップの量を倍にし、じっくり半日ほど浸けてくださいね
それでは今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!